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大阪地方裁判所 平成2年(行ウ)30号 判決 1990年7月26日

大阪府泉佐野市大西一丁目九番二〇号

原告

馬場谷幹次

大阪府泉佐野市下瓦屋三丁目一番一九号

被告

泉佐野税務署長

末原慶清

右指定代理人

杉浦三智夫

同右

田原恒幸

同右

中田孝幸

同右

濱田猛司

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和五七年分の所得税について昭和六〇年六月二一日にした更正処分並びに加算税及び延滞税の各賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文と同趣旨

2  本案の答弁

(1) 更正処分の取消し及び加算税賦課決定処分の取消しを求める原告の請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の主張

1(1)  被告は、原告に対し、昭和六〇年六月二一日付けで、原告の昭和五七年分の所得税につき、所得税の額を一七八四万四〇〇〇円(新たに納付すべき本税の額・一七七四万四〇〇〇円)に更正し(以下、この処分を「本件更正処分」という。)、加算税として八八万七〇〇〇円を賦課する旨の決定(以下「本件加算税賦課決定処分」という。)をした。

(2)  被告は、右各処分の通知書をもって、原告に対し、新たに納付すべき本税につき延滞税を納付すべき旨の通知をした。これは、延滞税を賦課する旨の決定の通知であり、この決定は、取消訴訟の対象となる処分(以下「本件延滞税賦課決定処分」という。)に当たる。

2(1)  本件更正処分は、雑損控除について判断の誤りがあり、また、処分の通知書等の記載にも誤りがあるから、違法である。

(2)  したがって、本件加算税賦課決定処分及び本件延滞税賦課決定処分も違法である。

3  よって、原告は、本件更正処分、本件加算税賦課決定処分及び本件延滞税賦課決定処分の取消しを求める。

二  原告の主張に対する被告の認否及び被告の主張

1(1)  原告の主張第1項(1)の事実は認める。

(2)  同項(2)の事実は、そのうち、被告が本件更正処分及び本件加算税賦課決定処分の通知書をもって、原告に対し延滞税を納付すべき旨の通知をしたことは認める。しかし、延滞税は、国税を納期限までに完納しないときに当然に納税義務が成立し(国税通則法六〇条一項)、それと同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものである(同法一五条三項八号)。したがって、延滞税賦課決定処分というものは有り得ず、また、被告の行った通知は取消訴訟の対象となる処分の通知に当たらない。

2  原告の主張第2項の事実は否認する。

3  原告の主張第3項は争う。

4(1)  国税不服審判所長は、本件更正処分及び本件加算税賦課決定処分について原告からされた審査請求について、昭和六一年九月二四日、これを棄却する旨の裁決をし、その裁決書は、同月三〇日、原告に送達された。

(2)  したがって、原告は昭和六一年九月三〇日に右裁決のあったことを知ったことになるところ、本件訴えが提起されたのは平成二年四月二六日であるから、右各処分に関しては、本件訴えは、行政事件訴訟法一四条一項に規定する三箇月の出訴期間が経過した後に提起されたことになる。

5(1)  原告は、本件更正処分及び本件加算税賦課決定処分について、その取消しの訴えを大阪地方裁判所に提起したが、同裁判所は、昭和六二年一〇月二三日に請求棄却の判決を言い渡し、大阪高等裁判所は、昭和六三年三月三〇日に控訴棄却の判決を言い渡し、最高裁判所は、昭和六三年一〇月一八日、上告棄却の判決を言い渡した。

(2)  したがって、本件更正処分及び本件加算税賦課決定処分の取消しを求める原告の請求は、確定判決の既判力により、理由のないこと明らかである。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  原告の主張第1項(1)の事実は、当事者間に争いがない。しかし、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一号証と弁論の全趣旨によると、国税不服審判所長は、昭和六一年九月二四日、本件更正処分及び本件加算税賦課決定処分について原告からされた審査請求につき、これを棄却する旨の裁決をし、その裁決書は、同月三〇日に原告に送達されたことを認あることができ、この事実によると、原告は昭和六一年九月三〇日に右裁決のあったことを知ったものと推定すべきことになる。

そうすると、原告が本件訴えを提起した平成二年四月二六日の時点においては、右各処分に関しては、行政事件訴訟法一四条一項に規定する三箇月の出訴期間が経過していたことになる。

なお、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二号証と弁論の全趣旨によると、原告は、右各処分につき国税不服審判所長に再度審査請求をし、平成二年三月二二日付けで、審査請求却下の裁決を受けたことが認められる。しかし、行政事件訴訟法一四条一項に規定する裁決は、適法な審査請求に対するものでなければならないところ、右審査請求は、審査請求とこれに対する裁決を経た処分につき繰り返しされたものであって、適法な審査請求ということができないので、右裁決のあったことをもって、行政事件訴訟法一四条一項に規定する裁決があったとして、新たに出訴期間を算定することはできない。

二  次に、原告の主張第1項(2)のうち、被告が、原告に対し、本件更正処分及び本件加算税賦課決定処分の通知書をもって、延滞税を納付すべき旨の通知をしたことは当事者間に争いがない。しかし、延滞税の納税義務は国税を納期限までに完納しないときに当然に成立し(国税通則法六〇条一項)、その税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定しているから(同法一五条三項八号、六〇条二項)、右通知は、被告において、原告に対し、法律により当然に成立しその税額の確定している延滞税の納税義務について教示したものに過ぎず、これに先行して延滞税の賦課決定処分がされ、あるいはこの通知をもって延滞税の賦課決定処分がされたものではないから、原告の主張する本件延滞税賦課決定処分は存在しないというべきである。

三  よって、本件訴えは不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 岡久幸治 裁判官 西田隆裕)

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